baby_rainy_dailyのブログ

1年後、全部忘れて恥ずかしくなる

大人

 

12月になったらしい。なにか新しい曲を聞きたいなと思って、逆に昔のプレイリストをシャッフル再生してみた。そこで耳に残ったのが季節外れのGalileo Galileiの「夏空」という曲。

 

『好きだった歌が響かなくなったな 誰のせいでもない 僕のせいでもないんだろう』

 

この歌詞の前に大人になったフリという言葉があるけれど、こういう感情が湧くのは本当に大人になったからというよりも、むしろ今が''大人になったと感じる時期''だからなんだと思う。

 

大学1年生の初め頃、クラスに好きな人ができて一緒に池袋に遊びに行った。何故かカップルシートで貝殻のベッドのようなところに並んで寝転びながらプラネタリウムを見た。そしてその後、デートの正解が分からなかった僕は慣れたふりをしてロクシタンカフェに入った。

出てからしばらくブラブラ歩いていると「実は今日話したいことがあるから30分だけカラオケ行こう」と言われた。相手の深刻そうな面持ちから、この時僕は勝手に告白されるかもしれないと思っていた。が、予想は裏切られた。むしろ全く逆の内容だった。同じクラスかつ僕の高校の友達でもある男から告白されて、返事を迷っているものの承諾しようと思っているという話だったのである。

期待との落差で愕然としていた僕は、今更好きだと言っても意味がないという思いからあまり言葉が出ず、肯定も否定もはっきりすることができなかった。

そしてここからだ。延長した30分もあっという間に過ぎて、出る雰囲気になった時に僕は言った。

「今の気持ちを歌った曲があるから、最後に一曲だけ聞いてほしい。」

 

僕は銀杏BOYZの「夢で逢えたら」を泣きそうになりながら熱唱した。

 

『君の胸にキスをしたら君はどんな声だすだろう
白い塩素ナトリウム 水色の水着を溶かすなよ

君を乗せた宇宙船が夕暮れの彼方へ消えて
光るプラネタリウム いっそのこと僕を吸いこんでよ

君に彼氏がいたら悲しいけど
''君が好き''だという それだけで僕は嬉しいのさ

ah 夢で逢えたらいいな 君の笑顔にときめいて
夢で逢えたらいいな 夜の波をこえてゆくよ』

 

歌い終わったあと気まずい空気が流れて、お互い口数少なくそのまま解散した。その後は、歌に心を打たれて気持ちが変化し僕のことが好きになるというような展開も特になく、普通にその子は告白された僕の友達と付き合った。

 

僕はこのエピソードを別に懐かしくて良い思い出話として出したわけではない。本当にただのめちゃくちゃ気持ち悪い勘違い野郎の話だと思っている。自分がもし女だったら何を1人で盛り上がってるんだと普通に引くだろう。

でも少なくとも当時の僕は、この状況で銀杏BOYZの「夢で逢えたら」を歌うくらい自分に酔えていて、このタイミングで歌うことがカッコイイと思っていたということである。

今はもう絶対に歌えない。まず恥ずかしいという気持ちが湧くだろうし、もっと冷静に対処できるはずだろうし、まず夢で逢えたらの歌詞に書かれているような大きくて衝動的な感情になること自体がもうない気がする。(そもそもこの時も心の底からそんな感情が湧いていた訳ではない。)

 

ここで最初の話に戻ると、これは大人になったということではなく、大人になったフリをしているんだと思う。''大人になったと感じる時期''なんだと思う。もしかしたらこの先大きくて衝動的な、誰かを思って爆発するような感情が湧くことがまだあるかもしれない。

本当に大人になった瞬間というのは 、カラオケで夢で逢えたらを歌った僕の気持ちにも今の僕の気持ちにもなることがなくなり、全てを懐かしくて良い思い出だなと感じるようになる時ではないだろうか?

 

今の僕には、今聴いてる曲が響かなくなって、昔話ばかりするような大人になることになんの意味があるのか分からないし、それはあまりにもつまらなくて寂しいことのように感じる。大人が誰しも学生時代の思い出話をするのは今よりも当時が刺激的で楽しい毎日だったからだし、死にそうな顔で電車に乗っているオジサンの生きている意味も本当に分からない。

そして、たぶん意味なんて別にないんだとおもう。目の前の生活を送る中で人によって大なり小なりの努力をして、勝手に歳をとり、勝手に生活が変わって、勝手に考え方が変わっていくのだ。歳を取っても幸せな人は幸せだし、不幸な人は死にたくないから生きてるだけなのだ。

要するに僕は今を肯定することで、幸せな大人になるための努力から逃げているだけなんだと思う。幼稚園生が毎日遊んでいられなくなるから、小学生になる意味が分からないと言っているのと本質的には同じなのかもしれない。

でも、それでも今だけは大人になりたくないと声を大にして言いたい。みんな思ってるありきたりの台詞。

 

池袋で遊んだ時のことを思い出したついでに、その子と撮ったプリクラを久しぶりに見返してみた。僕の前髪があまりにも短くて恥ずかしくなった。